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 断熱性能比較で欠かせない言葉と数値
断熱性能は断熱材の素材や厚さだけで判断するのではなく、建物の構造や工法、床や壁、天井や屋根などの建材や断熱材、窓や玄関ドアーの開口部の性能、気密性や換気性能などの様々な要素が計算され、結果として建物そのものの断熱性能を表す熱損失係数(Q値)冷暖房負荷の値などで判断されるものです。

それらの複雑な計算はともかく、賢い消費者として、断熱性能を客観的に比較出来る知識は、後悔をしない住まい創りの為にも欠くことの出来ないポイントとなります。

北海道の住宅メーカーや工務店のカタログで必ず登場する言葉に、熱損失係数(Q値)熱貫流率(K値)という言葉があります。どちらも断熱性能を意味するものですが、その言葉の意味を理解する前に、熱性能の前提条件となる熱伝導率について理解しましょう。


熱性能の前提条件となる熱伝導率について理解しましょう。

熱伝導率

どんな物質も熱を通す(伝える)性質を持っています。その物質がどの程度熱を通すかを比例的に定数化したのが熱伝導率であり、当然に値が低いほうが熱を通さない、つまり断熱性に優れていると言う事です。
熱伝導率=W/m・h・℃ で表示します。これは温度差が1℃の時、1mの厚さの物質を1時間に流れる熱量を表します。

例えば、天然木材の杉やヒノキの熱伝導率は0.12W/m.h.℃ですが、銅は372W/m・h・℃もあります。つまり銅は木材より3100倍も熱が伝わりやすいという事ですね。調理器具に使われるものは熱が伝わりやすい事が大事ですから、銅や鉄、アルミなどが良く使われますが、断熱という目的では不利な素材と言えましょう。

ここで、代表的な建材の熱伝導率 を別表に記載しますので確認しましょう。


熱伝導率の事が理解できたら、次に熱貫流率(K値)です。

熱貫流率(K値)

熱伝導率の事が理解できたら、次に熱貫流率(K値)です。
熱貫流率とは、ある固体壁を境として、熱は高温側から低温側に向かって熱移動するので、壁を構成する物質のそれぞれの熱伝導率を基にして計算して、壁1m2当たりの面積で1時間にどのくらいの熱が移動(逃げる)するのかを数値にしたものです。
当然に数値が低いほうが断熱性に優れる事になります。

熱貫流率は、熱を伝導させる素材と厚さで計算されますから、同じ熱貫流率を得ようとした場合には、熱伝導率の小さな断熱材は厚さを薄く出来ますし、伝導率の大きな断熱材の場合は、厚さを厚くしないとならないことがお分かりでしょう。
つまり、床や外壁、天井、屋根など、各部位の熱貫流率の値が小さい数値ほど、断熱性能が優れているという比較判断が出来る目安となる訳です。

しかし、各部位の熱貫流率の比較だけで断熱性能を判断するのは早計です。


次世代省エネ基準、熱貫流率一覧表を確認しましょう。

部位 熱貫流率の基準値 W/m2K
地域
I II III IV V VI
屋根又は天井 0.17 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24
0.35 0.53 0.53 0.53 0.53 0.53
外気に接する部分 0.24 0.24 0.34 0.34 0.34 -
その他の部分 0.34 0.34 0.48 0.48 0.48 -
土間床等の外周 外気に接する部分 0.37 0.37 0.53 0.53 0.53 -
その他の部分 0.53 0.53 0.76 0.76 0.76 -

・土間床等の外周部以外の部位は、内外の温度差1度の場合、1平方メートル当たり貫流する熱料をワットで表した値です。
・土間床等の外周部は、内外の温度差1度の場合、1メートル当たり貫流する熱量をワットで表した値です。


熱貫流率を計算する場合に、注意しなくてはならないのが熱橋です。

熱橋(ヒートブリッジ)から熱が逃げてしまう。

熱貫流率を計算する場合に、注意しなくてはならないのが熱橋です。
一般に、断熱材は柱と柱の間に充填する事が多いのですが、その場合、充填された断熱材の部分の熱貫流率と、断熱材が充填されない柱などの熱貫流率は当然違ってきます。この断熱材を充填できない柱などの部分を熱橋と言います。

当然、熱橋となる柱や梁などに使用する素材も、熱伝導率が小さなものを使えば性能的に良くなる事は言うまでもありません。この熱橋部分からの熱の移動を小さくする為には、熱橋となる柱などの外側(外壁側)に被覆する形で外断熱をおこなう方法があります。
この外断熱は、柱と柱の間に充填断熱するだけでは不足する場合などにも有効な断熱方法です。


窓や玄関ドアーなどの開口部についての断熱知識を勉強しましょう。

開口部からの熱損失が大きい

さて、建物の床や外壁、天井や屋根、といった部位からの熱損失を防ぐには、熱伝導率の小さな断熱材を出来るだけ厚くすれば良いかと言うと、事はそう簡単ではありません。
室内で暖められた空気は、窓や玄関ドアーなどの開口部から、断熱材で覆われた壁や天井以上に大きな熱が逃げていきますし、更に、目に見えない建物の隙間や換気によっても大きな熱量が損失します。

開口部の断熱性能

開口部の断熱性能を測る物差しも、外壁や天井と同様に、熱貫流率(K値)で表示されます。
開口部の熱は主として、(1)開口部の枠材や構造材を伝わって逃げる熱 (2)ガラスの部分から伝わって逃げる熱があります。

熱伝導率(?)の項目でも勉強したように、例えば窓枠に多く使用されるアルミの熱伝導率は203W/m2と、木材の1700倍もの熱伝導がおこります。その意味ではアルミサッシの窓は最悪と言うことになりますが、一方でアルミサッシは腐食したり塗装がはげたりする事は無く、軽くて強度がありメンテナンスに楽な素材でもあります。
そこで、外側のアルミ枠と室内側のアルミ枠の間を熱移動が小さな樹脂などを挟み込んだ熱遮断枠のアルミサッシが登場しています。

ガラスも重要な要素

窓のガラスは既に複層化が常識となっています。大事な事は、ガラスとガラスの間の密閉された空気層がどれくらいあるかという事です。
複層ガラスの空気層は一般的に6ミリと12ミリのものがありますが、空気層が広いほど断熱性が良いことは言うまでもありません。
これらの性能を加味して表示されるのが、開口部の熱貫流率です。

次世代省エネルギー基準では、岐阜県の熱貫流率を、4.65W/m2.h.℃以下としていますが、それでも、外壁の熱貫流率基準の約9倍もの熱損失がおこる訳ですから、開口部面積は建物全体の断熱性能に大きな影響を与えることがお分かりでしょう。

これで外壁や天井、屋根などの熱貫流率(K値)や、窓などの開口部の熱貫流率(K値)が、断熱性能比較で重要な意味を持つことがお分かりのことと思います。


開口部の熱貫流率一覧表を確認しましょう。

地域 I II III IV V VI
熱貫流率の基準値W/m2K 2.33 3.49 4.65 6.51

開口部の熱貫流率が、地域の区分に応じて基準値以下であること。


最後に、熱損失係数(Q値)です。

熱損失係数(Q値)

外気温が1℃だけ室温より低いと仮定した場合、外壁・屋根・床・窓を通して外部に逃げる熱の量と換気によって損失する熱の量の合計を延べ床面積で除した数値を熱損失係数(Q値)と言います。

熱貫流率は床や壁、窓などの部位の断熱性能を表したものですが、熱損失係数(Q値)は、建物そのものの断熱性能値として総合的に評価される値であり、値の小さいほうが断熱性能に優れていると判断出来る重要な数値です。

熱損失係数=Q=W/m2・h・℃


次世代省エネ基準、熱損失係数一覧表を確認しましょう。

地域 I II III IV V VI
熱損失係数の基準値W/m2K 1.6 1.9 2.4 2.7 3.7

住宅の熱損失係数が、地域の区分に応じて基準値以下であること。

次世代省エネルギー基準から、使用する熱量単位がkcal(キロカロリー)からW(ワット)に変わっています。これは国際規格の統一の為に採用された単位です。1W(ワット)は0.86kcal(キロカロリー)の事です。住宅メーカーの中には未だkcal(キロカロリー)の単位で表示しているところがありますので注意してください。


まとめ

今まで勉強したように、外壁や屋根などの熱貫流率に夫々の部位の面積を乗じた数値、そして窓などの開口部の熱貫流率に開口部の面積を乗じた数値が、熱が逃げていく量という事になります。

しかし、建物全体の断熱性能を表す熱損失係数(Q値)は、建物の隙間や換気によって損失する熱の量も計算しなければなりません。建物から逃げる熱は、床や外壁、天井や屋根の部位から逃げる熱(これを伝熱損失と言います)と、建物の隙間や換気によって逃げていく熱(これを換気損失と言います)の二つがあります。建物の目に見えない隙間から漏れる熱や換気によって失う熱の量も大変に大きなものがあります。