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 化学物質による室内空気に関する指針
住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針 (改正 平成13年3月2日)

社団法人 住宅生産団体連合会は、健康住宅研究会で取り上げられた優先取組物質の放散量低減と厚生労働省の室内濃度指針値を、出来る限り早期に達成できるよう全力を挙げて取り組むべく、その対策を指針としてまとめています。
この指針は、社団法人 住宅生産団体連合会から公表されていますが、住宅産業界にとっての重要な指針ですので、当団体からの公表資料をご案内いたします。

(財)建築環境・省エネルギー機構(当時 住宅・建築 省エネルギー機構)は、平成8年7月、建設省、厚生省、通商産業省、林野庁(当時)の協力の下に、学識経験者、関連業界団体などからなる「健康住宅研究会」を組織し、健康に影響を与える可能性のある化学物質に関して、室内空気汚染対策の検討を行った。その成果として、「室内空気汚染の低減のための設計・施工ガイドライン」(設計・施工ガイドライン)「室内空気汚染の低減のためのユーザーズ・マニュアル」(ユーザーズ・マニュアル)をとりまとめ、平成10年4月に公表した。

健康住宅研究会では安全な居住空間を実現するために当面優先的に配慮されるべき物質として、3物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン)及び3薬剤(木材保存剤(現場施工用)、可塑剤、防蟻剤)を優先取組物質として選定し検討した。これらの成果を踏まえて、さらに調査研究をすすめるため、平成12年6月「室内空気対策研究会」が発足している

厚生省(当時)の「快適で健康的な住宅に関する検討会議 住宅関連基準策定部会 化学物質小委員会」は平成9年6月ホルムアルデヒドの室内濃度指針値(100μg/m3、0.08ppm)を提案し、同「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」は平成12年6月トルエン(260μg/m3、0.07ppm)キシレン(870μg/m3、 0.20ppm)パラジクロロベンゼン(240μg/m3、0.04ppm)、平成12年12月エチルベンゼン(3800μg/m3、0.88ppm)スチレン(220μg/m3、0.05ppm)クロルピリホス(1μg/m3、0.07ppb但し、小児の場合は、0.1μg/m3、0.007ppb)フタル酸ジ-n-ブチル(220μg/m3、0.02ppm)の室内濃度指針値、及びホルムアルデヒド・揮発性有機化合物の採取方法と測定方法などを策定し、公表した。

これらの背景を踏まえ、「社団法人 住宅生産団体連合会及びその構成団体の会員が企画・設計し、かつ建設・分譲する住宅においては、入手可能な建材・施工材を使用して住宅内でのホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物(VOC)等の室内濃度を低減するため以下の通り、平成13年10月着工分から実施するものとする。」としている。


住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針

(1) 内装仕上げ材に用いる、合板類はホルムアルデヒドの放散量が日本農林規格(JAS)で定めるFc0等級レベルのものとし、ミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF)及びパーティクルボードはホルムアルデヒドの放出量が日本工業規格(JIS)で定めるE0等級レベルのものとする。ただし、通気性がある畳・カーペットなどの下地板も同様とする。
日本農林規格(JAS)には、合板類についてホルムアルデヒドの放散量に関する等級規格が定められている。
普通合板・構造用合板・コンクリート型枠用合板・特殊合板・難燃合板・防炎合板・構造用パネル・フローリング・集成材・構造用集成材・単板積層材・構造用単板積層材 に関する日本農林規格(JAS)  ホルムアルデヒドの放散量の表示に関する等級をFc0、Fc1、Fc2に区分しており、この中では、Fc0からの放散量が最も少なく、Fc1がこれに次ぐ。

表示の区分 ホルムアルデヒド放散量*
平均値 最大値
Fc0 0.5mg/L以下 0.7mg/L以下
Fc1 1.5mg/L以下 2.1mg/L以下
Fc2 5.0mg/L以下 7mg/L以下 集成材・構造用集成材を除く他の合板類
Fc2s 3.0mg/L以下 4.2mg/L以下 集成材・構造用集成材

(2) 収納・収納家具・建具類・造作材等及び住宅設備機器に用いる、合板類はホルムアルデヒドの放散量が日本農林規格(JAS)で定めるFc0等級レベルのものとし、ミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF)及びパーティクルボードはホルムアルデヒドの放出量が日本工業規格(JIS)で定めるE0等級レベルのものとする。ただし、当面は、表面をフィルム・樹脂類・塗装等で被覆、仕上げした場合、その芯材についてはホルムアルデヒドの放散量がそれぞれ日本農林規格(JAS)で定めるFc1(注)等級レベル迄のもの及び日本工業規格(JIS)で定めるE1(注)等級レべル迄のものも使用することができる。
(注)資材供給等の状況を勘案し、平成14年4月1日を目途に、日本農林規格(JAS)で定めるFc0及び日本工業規格(JIS)で定めるE0等級レベルのものへ移行していくものとする。
日本工業規格(JIS)には、JIS A5905ミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF)及びJIS A5908パーティクルボードについてホルムアルデヒドの放出量に関する等級規格が定められている。

MDFとパーティクルボードに関する日本工業規格(JIS)

 MDFはJIS A5905(繊維板)、パーティクルボードについてはJIS A5908(パーティクルボード)によって、ホルムアルデヒドの放出量の表示について等級が規定されており、その大小によってE0、E1、E2の3区分による表示を行うことになっている。この中では、E0からの放出量が最も少なく、E1がこれに次ぐ。
種類 記号 ホルムアルデヒド放出量*
E0タイプ E0 0.5mg/L以下
E1タイプ E1 1.5mg/L以下
E2タイプ E2 5.0mg/L以下
*20+1℃のデシケーター内に一定量の試料を24時間放置した際、デシケーター内の蒸留水に吸収された濃度
(1)及び(2)の内装仕上げ材に用いる合板類には、普通合板・構造用合板・コンクリート型枠用合板・特殊合板・難燃合板・防炎合板・構造用パネル・フローリング・集成材・構造用集成材・単板積層材・構造用単板積層材が含まれる。

(1)及び(2)の等級レベルには、JAS及びJISに定めるデシケーターによる試験方法で測定されたホルムアルデヒドの水中濃度がそれぞれの放散量、放出量基準以下と確認されたものが含まれる。その一例として、社団法人 日本建材産業協会はホルムアルデヒド放出量に関して、製品の試験・審査をし、評価証を交付する「建材表示制度・空気環境性能表示制度」を行なっている。

ホルムアルデヒド放出量の区分及びその記号
区分 (mg/L) 記号
0.5以下 FEC 0.5
1.5以下 FEC 1.5
5.0以下 FEC 5.0

収納には、押入・物入れ・クローゼットなどがあり、収納家具・住宅設備機器は施工の際、住宅の室内に組み込まれ、引渡し時に住宅と一体となっているものを指す。造作材等には、廻り縁、巾木、窓枠、階段手摺等を含む。
(3) 壁紙は、ホルムアルデヒドの放散量がISMあるいはそれと同等の基準、性能に適合するものを使用する。
ISMは生活環境の安全に配慮したインテリア材料に関するガイドラインのことで、壁装材料協会が定める壁紙等インテリア材料に関する自主基準である。ISMのホルムアルデヒド濃度基準と同等の基準の自主規格には壁紙製品規格協議会のSV規格、ドイツのRAL規格などがある。なお、これらの規格ではホルムアルデヒド以外の化学物質等についても基準値等を定めている。
(4) 壁紙の施工に使用する接着剤は、ホルムアルデヒド不使用が明記されたものを使用する。
壁紙の施工に使用するホルムアルデヒド不使用の接着剤とは、JIS A6922に定めるデシケーターによる試験方法で測定されたホルムアルデヒド放出量が不検出(検出限界 0.1mg/リットル以下)と確認されたものをいう。通常、ノンホルマリン、無ホルマリン、ゼロホルマリンなどと表示、販売されている。
(5) 内装仕上げ等工事に使用する接着剤・塗料は、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン不使用のものとする。やむを得ず、これらの4物質を含む接着剤・塗料を使用する場合は、その使用量を最小限に抑え、十分に養生期間を設ける等に配慮をする。
内装仕上げ等工事には、内装仕上げ工事及び廻り縁、巾木、窓枠、手摺、階段等の工事を含む。
(6) フタル酸ジ-n-ブチルが使用される内装用の建材・施工材は極力使用しない。
フタル酸エステルの一種であるフタル酸ジ-n-ブチルは可塑剤として使用されることが多く、塩化ビニル樹脂(塩ビ)、塗料、接着剤等に含まれる。
(7) スチレンが使用される内装用の建材・施工材で、スチレンの放散量が多いものは使用しない。
住宅室内のスチレンの放散源については、現在研究がすすめられており、これらの情報の入手に努めることが必要である。
(8) 木材保存剤・防蟻剤等のクロルピリホスは使用しない。
クロルピリホス以外の有機リン系防蟻剤についても、建物構造の耐久性(劣化の軽減)を図るため、やむを得ず使用する場合は、その使用量が極力少なくなるように努める。
(9) 近年の住宅の気密性を配慮しつつ、適切な換気回数が確保できるよう、換気システムや給排気口の設置など必要な対策を講じるものとする。特に、高気密住宅(隙間相当面積2cm2/m2以下の場合)については常時(24時間)換気システムの設置を標準とすることに努める。
換気回数は0.5回/時以上を確保する必要があり、床面積1m2あたり5cm2以上(風の強弱、室内外の温度差の高低により調整できるものが望ましい)が取れるような換気小窓・通気口などを設置する。
(10) ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物(VOC)等が住宅の建材・施工材からだけでなく、引渡し後お客様が室内に持ち込まれる家具や生活用品・クリーナー・ワックス・衣料用防虫剤(パラジクロロベンゼン等を含む)、喫煙などから放散される可能性があることをお客様にご説明または明示し、注意を喚起する。
(11) 健康住宅研究会が公表した「設計・施工ガイドライン」などを参考とし、ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物(VOC)等の放散量低減対策に配慮した住宅の計画、設計及び施工を行なう。
(12) 建材・施工材から放散される、本指針に記載された化学物質に関する情報をお客様の要望に応じ、提供出来るように努める。


住宅の建材・施工材以外にもホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物(VOC)等が放散される可能性があるものとして下表のものがある

建材、施工材以外での優先取組物質の発生源となる可能性

発 生 源 含有する可能性のある優先取組物質
洗浄剤(クリーナー、ワックスなど) ホルムアルデヒド、トルエン
塗料及び関連製品(塗料、スプレーなど) トルエン
農薬など(殺虫剤、防ダニ剤、防虫剤など) キシレン、クロロピリホス、アレスリン、ペルメトリン、フェニトロチオン、フェンチオン、マラチオン、ダイヤジノン
粘着/接着剤(多目的接着剤、ゴム用接着剤など) トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド
化粧品など(シャンプー、香水、ヘアスプレーなど) ホルムアルデヒド
自動車用品(オイル/フルード、ガソリン、ワックスなど) トルエン、キシレン
趣味用品など(写真用薬剤、専門接着剤など) トルエン、キシレンン、ホルムアルデヒド、可塑剤(DEHP)
家具、衣類など(家具、カーテン、マットレス、カーペットなど) ホルムアルデヒド、可塑剤(DEHP)
開放型燃焼機器など ホルムアルデヒド
煙草の煙 ホルムアルデヒド

(出典:ユーザーズ・マニュアル/健康住宅研究会)
(注:例示した製品が右欄に示した優先取組物質を必ず含んでいるわけではない)

厚生省(当時)の、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会から、平成12年12月室内空気質の状態の目安としてTVOCの暫定値(400μg/m3)が提案されており、室内濃度指針値対象の化学物質とともに総量としての室内汚染化学物質の放散量低減に努める必要がある。


その他の注意事項

美装工事における溶剤・洗剤及びワックスなどの使用により、室内でのホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物(VOC)等の濃度が高まることがある。
 美装工事に当たっては、溶剤・洗剤及びワックスなどの選定、その工事時期及び工事中・工事後の換気を十分に行なうことなど、施工管理上の対策を講じる必要がある。

本指針は、主に内装仕上げ材等からの室内への化学物質放散量低減を目的としており、躯体内や床下等の空気を室内に取り入れる構・工法等については個別に配慮が必要である。

低ホルマリン化による、建材・施工材の耐久性、虫害、かびなどの発生問題が指摘されているが、現在その因果関係は必ずしも明確にはなっていない。個々の施工において注意が必要である。

建材・施工材から放散される、本指針に記載された化学物質に関する情報・知識をMSDS(製品安全データシート)等により入手するとともに、お客様(入居者)の要望に応じ使用する建材・施工材に関する化学物質の情報提供を行うように努める。また、お客様(入居者)から住宅完成後の室内空気質の測定を求められた場合には、お客様に誤解を与えないよう適切な情報(濃度、測定法、測定者、日時など)を提供できるように努める必要がある。